「野生動物学初歩実習」活動報告⑥
今回の野生動物学初歩実習は、天候にも恵まれ、人々で賑わう中での実施となりました。動物園に向かう途中に平安神宮があるのですが、思わず立ち止まって空を見上げてしまうほど、見事な秋晴れの空でした。
このような書き出しだと、「抜けるような青空の下、気持ちよく実習ができたんだな」と思われたかもしれませんが…。この日の気温は11度。もう驚くほどに「寒い」のです。観察している生徒の中でも、特に定点で動くことなくじっと観察していた生徒はかなり大変だったように思います。もちろん、寒いと思っているのは人間(私)だけではなく、園内のいたるところで暖を取ろうとしている可愛らしい動物たちの様子が見られました。
(一枚目はケープハイラックス、二枚目はウサギ、三枚目はアカゲザルです。皆身を寄せ合って暖を取っています。四枚目はゴリラです。寒さにも負けず?格好いい背中です。)
今日もまずはチンパンジーの観察場所へ。やはり、寒いのかチンパンジーの動きは少なめでした。しかしながら、観察している生徒に聞くと、「結構動きが見られるので、データは沢山取れています。むしろ、寒くて晴れている日なので、自分の研究にとっては注目したいデータです。」と言われました。確かにその通りで、その生徒の研究には「気温の低い晴れた日」という要素が必要になってくるはずです。研究発表に向けて良いデータが取れたのだなと思うと、少し憎らしかった寒さも和らいだ気がしました。
(台に寝転んで、リラックスしています。日向ぼっこでしょうか。)
ゾウの観察グループでは、データを沢山取ろうと、生徒だけでなく学生アドバイザーの皆さんも一緒になってデータ収集です。ゾウの動きは活発で良く動くので、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと大変です。ターゲットにしている動きも角度によって見えづらい場合や、行動としてカウントしていいのか微妙な場合があるなど、収集にも苦労しています。データ数がまだまだ必要な雰囲気ですので、大変ですががんばって欲しいと思います。
さて、最後にツキノワグマの観察です。前回同様、ツキノワグマの観察は、「嗅覚」に関する《実験》をしています。「今日の臭いにはあまり反応を見せていないように思います。ただ、常動行動も少ないのです。」と実験に取り組んでいる生徒から報告がありました。生徒と話している中で、「気温が低いことが影響しているかもしれない。」という発言がありました。確かにこの日の気温は低く、例年よりも冷え込んだはずです。クマには冬眠といった行動もあるので、もしかすると何らかの影響があるのかもしれません。クマの冬眠に関する論文や動物園でのクマの冬場の過ごし方についての論文などを探してみようか、と話を終えましたが、「研究は進める度に考えることが増え、どんどん広がっていくものなのだな」と改めて実感できました。
(一枚目はたまたま近くまで寄ってきた時のものです。目線ばっちり!可愛いですね。二枚目のように、今回は台の上でじっとしていることが多かったです。ただ、ホースに対する反応は観察できたようなので、新規の臭いを気にしている様子はあるのだと思います。)
さて、最後になりますが、今回は「動物の保全」に関する調査研究に進展があったということで、話し合いの場が設けられました。以前も報告したように思いますが、「動物の保全」に関する研究への協力として、本校の生徒と北野高校の生徒を対象に9月にアンケート調査を実施しています。そのアンケートの回収及び入力が一段落したとのことで、これからどの様に分析・発表をするかという方針を決定しようというのが会合の目的でした。
なんと、開口一番「生徒たちの自由な発想で、自由にデータを分析してもらってかまわない。分析方法や結果の考察についてもアドバイスするので。」とおっしゃっていただきました。話を聞いていた生徒たち(もちろん私もですが)この研究は自分たちが扱えるデータではないと思っていたので、驚きを隠せません。しかも、プリマーテス研究会の開催が3月になりそう(本来は1月下旬)だということで、「1月中に別の研究会で、このデータを分析して、研究発表してみませんか?」とご提案いただきました。あまりのことに声も出せない様子の生徒たちでしたが、最後には「やります!」と言ってくれました。
ということで、今年度の7期生は、プリマーテス研究会で発表する予定の個人研究に加えて、「保全」に関する研究についても発表する機会を得られるという幸運に恵まれました。2回発表するということは、当然準備も2倍になるということですが、生徒の皆さんには、折角の貴重な機会を有意義なものにできるように頑張ってほしいと思います。
余談ですが、帰り際、動物園の出口で簡単なアンケートに答えたところ、ポストカードをいただきました。沢山の種類の中から私が選んだのは、「オオサンショウウオ」(チンパンジーを選ぶべきかとも思いましたが、素直に自分がピンときたものを選びました)です。アンケートは動物の権利に関わるような内容でしたが、動物園で沢山の動物に触れた後で考えると、普段よりも真剣に向き合うことができたように思います。動物園が率先して、飼育する動物の権利や保全に関して真正面から取り組んでいこうとしている。そのような動物園の姿勢に感銘を受けながら園を後にしました。
本日も京都市動物園の職員の皆様に、またジュニアアドバイザーの皆さんを始めとした京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院野生動物学初歩実習関係者の皆様に大変お世話になりました。有り難うございました。今後も宜しくお願い申し上げます。