中学校第26回卒業式を挙行しました。

2022/3/18

式辞

 宮沢賢治の作品に『セロ弾きのゴーシュ』という小説があります。
読んだことはありますか。セロとは何のことか知っていますか。

セロとは楽器のチェロのことで、ゴーシュは名前です。
ゴーシュは町の音楽団でチェロを弾いていました。
真面目で練習熱心でしたが演奏はあまり上手ではありません。
音楽団の団長に、いつも怒られてばかりいました。
悔しさを抱きつつ、家に帰ってからも練習を続けるゴーシュのもとに、毎晩、いろいろな動物たちがやってきて、ゴーシュに曲を演奏するように求めるのです。
ゴーシュは自分が馬鹿にされ、からかわれていると思いながらも、渋々、動物たちの希望に応えていきます。そうしている間に、ゴーシュの腕前は、段々上達し、周囲から認められるまでになるというお話です。
この物語からは、それぞれの動物たちが繰り広げる話を通して、いろいろなメッセージを読み取ることができます。

人前で散々貶され、落ち込んでいるゴーシュを最初に訪ねてきたのは、三毛猫でした。三毛猫はトマ卜をお土産に持ってきます。  
「これおみやげです。食べてください。」と三毛描が云います。
すると、ゴーシュは昼からのむしゃくしゃから三毛猫をどなりつけます。
「誰がきさまにトマトなど持ってこいと云った!。第一、俺がきさまらの持ってきたものなど食えるか…」と言い、家にやってきた三毛猫に怒りをぶつけます。楽団でじっと溜め込んでいた怒りが、三毛猫の何気ないひと言で爆発してしまったのです。三毛猫は「ゴーシュのセロを聴かないと眠れない」とシューマンの曲を弾くように求めますが、からかわれていると思ったゴーシュは「印度の虎狩」という曲をすごい勢いで弾き、猫を追い出してしまいます。

このように人間にとって、人前で罵倒されるのは、とても辛く惨めなことです。
そして溜め込んだ怒りは、往々にして自分よりも弱い立場のものにぶつけてしまいます。「いじめ」の構造もここにあるといえます。人間の感情で最も手に負えないのが怒りであり、怒りをコントロールできる人は、すべての感情をコントロールできるとさえいわれています。

私もふくめ、君たちは、形こそ違え、誰でも怒りを人にぶつける弱い一面を持っています。問題は、怒りの感情が湧き起こった時にどう対処するかです。
怒りの感情に囚われている自分を第三者の目で客観的に見つめること。
そうすれば、怒りの感情は自然と収まってきます。

心理学では、アンガーマネージメントという怒りの感情と上手につきあうためのトレ-ニング方法があるくらいです。
もっとも、物事には必ずプラスとマイナスの両面があるように、怒りもマイナスの部分ばかりではありません。時には逆境を跳ね返すだけの力になります。
その心の持ち方によってプラスにもマイナスにも作用するのだそうです。
「相手が悪い。相手を何とか変えたい」と思ったりしている間は、なかなか解決しません。自分の生き方や態度が変わることによって、相手も変わっていくからです。

物語は、三毛猫の後、カッコウ、狸の子、野ねずみの親子がゴーシュの元を尋ね演奏を懇願します。
人を見下す楽団長がいたり、無理難題を言い出す動物たちもいました。しかし、ゴーシュは悪口を言いながらも、相手の中にある優しさを感じ取り、心を開いてその思いに応えます。ゴーシュは自分でも気づかないうちに、色々な出会いがあり、磨かれ成長したのです。
私も含め、君たちの人生は、日常生活の小さな出会いによって成り立っています。
クラスしかり、クラブしかりです。
日々の生活、人と人とのつながりを大事にすることによって物事は成就していきます。
それは、社会に出てどんな仕事についたとしても共通して言えることです。

この物語を語る上で、頑なだったゴーシュの心を解きほぐしていった動物たちの邪心なき、素直な心が、知らず知らずのうちにゴーシュを感化し、成長させていったのです。
動物たちは謙虚に教えを請いながらも自然に接しているのです。
このような素直でまっすぐな生き方が、人と人との絆を深め、心豊かな人生を歩む上でとても大切なことだといえます。

自分を磨くため、自分を高めること。それは、学ぶことでもあり、生きていくことでもあります。
すなわちこの後、人とつながり、どのようなかたちで社会に貢献していくかです。
そのための基本となる力を高等学校や大学で身につけるのです。
結果が出るまでには、もう少し時間がかかるかもしれません。

しかし、その間の努力は決して無駄にはなりません。
中学校を卒業し、高等学校へステップがひとつあがります。

自分を磨くため、自分を高めること。
それは、学びを深めていくことでもでもあります。
ひとつ前へ、一つ上へ…。

 改めて、関西大倉中学校を卒業される104名の皆さん、中学卒業おめでとう。

以上、第26回関西大倉中学校卒業式式辞とさせていただきます。

2022年(令和4年3月16日)

関西大倉中学校 校長 古 川 英 明