本日は、新2年生を対象とした京都大学との高大連携講座、〈『動物学ってなんですか??』プログラム〉の2日目の報告です。この日は嵐山モンキーパークで、ニホンザルの観察実習をし、そこでの記録をもとにグループで話し合い、気付いたことや考えを全体に発表・共有することになっています。
朝早くから桂駅のホームで、ジュニアアドバイザーが看板を作って生徒たちを待ってくれていました。(忙しい中、生徒たちのために様々にご配慮いただきありがとうございます。)全員が揃ったのを確認して、嵐山へ向かいます。
この日は暖かく、嵐山の駅のホームに降りると桜が咲いているのが目に入ります。渡月橋も観光客で賑わっています。美しい景色を見ながら、嵐山モンキーパークを目指します。
私自身、嵐山モンキーパークに行くのが初めてで、櫟谷宗像神社(いちたにむなかたじんじゃ)の上にあるのを知りませんでした。案内に従って神社に向かう階段と鳥居をくぐった際に、自分と同じく初めて来た近くの生徒と「神社がサルの公園になっているの?」や「神社で観察をするの?」と今日の実習がどのようなものになるのか想像もつかず、どきどきしていました。(神社の横にある道から山道を登って、山の上にいくとモンキーパークがあります。)
神社の前に一旦集合し、「これから20分山道を歩きます」と指示がありました。山登りがあると事前に連絡があったので覚悟はしていましたが、なかなか急な坂道を登っていきます。途中休憩を挟みながら、ジュニアアドバイザーがサルの生態に関するレクチャーやクイズなどを話してくれます。「サルはじっと目を合わせると敵対行動だと思うので、見つめないこと」や「2m以上離れて観察し、しゃがまないこと」など、観察するときの注意点も教わります。
山頂からは京都市内が見渡せます。この日は天気も良く、京都タワーや御所なども見ることができました。
嵐山モンキーパークでの実習は、「①自由に観察し、サルの気になる行動を記録する」、「②班に分かれて観察するサルの行動と記録方法を決定する」、「③決定した内容に従って、約2時間の行動観察をする」という3つのパートに分かれています。
まず、生徒たちは園内を自由に歩いて、サルを自由に観察します。「小さいサルが餌をもらおうとすると、大きいサルが追い払っている」、「ずっと木の上で、大きいサルが小さいサルの毛繕いをしている」、「日陰でずっと寝ている」、「水に入りたそうに、ときどき手を入れながら池の周りをぐるぐる回っている」、「土を食べている」など生徒たちは沢山のことを観察してくれていました。次に、班に分かれてサルの行動について話し合い、観察対象となるサルの行動を班ごとに決定します。先生やジュニアアドバイザーに指導を受けながら、観察していて気になったサルの行動を挙げて、「その行動がどうして生じているのか」や「行動の原因を明らかにするためにはどういう方法で観察すればよいか」など班で話し合います。そして、各班観察する行動が決まれば、後はひたすら時間の許す限り観察です。サルは動き回るので、生徒たちは自分が観察する個体の追跡のために右往左往していました。また、グルーミングを観察すると決めた班は、「決まってから一斉にサルのグルーミング行動が見られなくなった」と嘆いていました。時々先生やアドバイザーに助言をもらいながら、長いと思っていた2時間があっという間に過ぎ、観察を終えることになりました。「まだデータが足りない」と焦る生徒もいますが、この後まとめと発表の時間があるので移動を開始し、下山します。
山を下りた後は、京都大学桂キャンパスに向かいます。ジュニアアドバイザーの皆さんが、大学図書館のスペースを予約し、話し合い及び発表の準備を整えてくださいました。(眺望がすばらしい部屋で、足を踏み入れた瞬間、立ち止まって外の景色に見入ってしまいました。さすが、京都大学(工)の図書館です。)
さて、観察内容の話し合いに入る前に、食堂で昼食をとります(利用時間の指定やパーティションなど、感染対策もバッチリです)。午前中の疲れか、この後が不安なのか(もちろん默食を心がけたということもありますが)、静かなランチタイムでした。
図書館に戻り、各班午前中の観察データをまとめていきます。1日目も活発な議論が行われていましたが、2日目は議論のレベルが違いました。自分の想像以上に生徒たちはすばらしい活動を見せてくれました。1日目は自分の意見を言わずに少し引いて見ていた生徒が積極的に自分の意見を述べたり、自分の意見を指摘されると言葉を詰まらせていた生徒が指摘をポジティブに捉え昇華させられるようになっていたりと、2日間で驚く程の成長がみられました。机から立ち上がったり、側に駆け寄って手伝ったり、議論が進むと拍手がでたり。皆が全力で、〈深く考え・深く議論すること〉を実践してくれていました。2時間で研究データをまとめ、グラフを作成し、発表スライドを作成する。おそらく、生徒たちにとっては初めての経験だったでしょうし、非常に過酷なタスクだったと思います。それでもどの班も全員で協力し、最後まで全力を振り絞ります(がんばりすぎて、煮詰まったり、へばっていたりするのもご愛敬です)。
いよいよ発表の時間です。3つの班に分かれていましたが、そのうち2つが「利き手に関する考察」で残りが「世代が異なる場合のサルの他個体に対する行動の違い」でした。利き手の観察では、注目する行動が摂食行動であったりグルーミングであったりと班によって異なっていました。どちらの結果からも「サルには利き手がありそうだ」ということを、グラフを用いながらしっかりと説明できていました。子ども同士の場合と、大人と子どもの場合での接触行動の違い観察する班からは、追い払う行動については子ども同士の方が多く見られ、毛繕いなどの受け入れる行動については大人と子どもの場合の方が多く見られるという違いがあったと発表がありました。講評では「どの班もしっかりと観察ができているし、目標行動の設定や観察の手続きも納得のできるものになっている。よくがんばった。」と褒めてもらうことができました。最後に、アドバイザーのニホンザルに関するレクチャーを聴いて2日目が終了となりました。当然なのですが、実際の研究と生徒たちが行った実習では、内容や手続き、観察時間などに大きな違いがあるのは当然です。そんな中、レクチャーを聴いていた生徒が「自分が実際に観察をしたことで、研究というものがどれだけすごいクオリティなのかが分かった。でも、たった2日間という短い実習であっても、学んだことや気付いたことが本当の研究とリンクするのだということも分かり、すごくワクワクした。」と言っていたのが、非常に心に残りました。
2日間の実習が終わり、最後に現役大学生が高校生に進路のアドバイスをしてくださいました。この実習は動物に関する実習ですが、実は参加しているメンバーは文・法・教育・農・総合人間・医と様々です。それぞれの学部で学ぶ内容やどういう学びや将来を目指しているのか、高校時代の過ごし方などお話いただきました。また、生徒の質問にも丁寧に答えてもらいました。実習だけでなく、進路相談まで。至れり尽くせりのプログラムに生徒たちも満足そうでした。
この日も帰り道に生徒と今回の実習について少し話をしました。実習について、「みんなと議論できたことがとても楽しかった」、「考えることが楽しかった」、「疲れたけれど、内容は最高でした」などと言っていました。今回の実習では(生徒も気付いたようでしたが)、アドバイザーの皆さんが「議論すること」をすごく大切にしてくださったように思います。スケジュールが押す中でも活発な議論の盛り上がりを見て、その場で予定を組み直したり施設と時間交渉したりして、班での話し合いの時間を予定より45分も延長してくれました(生徒たちは約2時間議論&まとめをし続けました)。生徒たちが意見を出し合い、議論を深めて考察し、さらに指摘しあって修正し、再度出てきたものを議論する。その過程をじっと見守り、時にはアドバイスし、生徒たちが主役になるようにそっと手助けをする。「京大の人たちみんなが本当にヤバかった」そうです(笑)そのようなすばらしい人たちの、考えや指導に触れることができたことは、生徒たちにとって非常によい経験になったはずです。
ジュニアアドバイザーの皆さんを始めとした京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院野生動物学初歩実習関係者の皆様、様々にご尽力いただき誠に有り難う御座いました。今後もよろしくお願い申し上げます。