本年度の野生動物学初歩活動の成果発表の場である、プリマーテス研究会発表が3月27日(日)に開催されました。本年度もコロナ禍の中、オンラインでの大会参加になりました。犬山での現地発表は叶いませんでしたが、1年間がんばって取り組んできた研究をお披露目できる機会があることは本当にありがたく思います。会場は、本校の情報教室を使用しました。スライドの準備やZoomの接続確認など、生徒たちも発表準備に力が入ります。
時間になり、大会がスタートします。開会の挨拶があった後は、さっそく口頭発表が始まります。動物の特性についての発表も多いのですが、飼育動物のエンリッチメントや動物福祉についての研究が非常に多く取り上げられていたように感じました。生徒たちの研究テーマにもなっていましたが、大きな関心が注がれる分野なのだと、改めて実感しました。
まず、生徒たち個人の発表の前に、以前に第62回日本動物園水族館教育研究会で発表した、小型霊長類への意識調査の研究を発表します(高校生を対象とした小型霊長類のペット飼育に関する意識調査と教育教材の効果測定)。
前回はポスター発表でしたが、今回は口頭発表です。口頭発表にあわせて、研究データの見せ方等前回以上にパワーアップした内容を発表しました。前回の発表以上に、目的や結果が明確に提示され、とても分かり易い内容になっていたと感じました。
いくつかの発表が終わり、とうとう生徒の個人発表の順が回ってきました。ここからは、各生徒の研究について、個別に紹介、感想を述べていこうと思います。
①嗅覚エンリッチメントを使ったツキノワグマの常同行動の増減
過去のブログで何度も取り上げていた、ツキノワグマの研究です。クマの常同行動はストレス等が原因で生じるといわれているところから、今回の研究はスタートしました。複数の臭いに対するクマの行動を観察し、常同行動を減少させる臭いがどのようなものなのかを調べました。発表が終わった後、会場から「空中で動物のフンの臭いを嗅ぐ状況は特殊なので、ホースの設置場所による差を見てみたらどうか。」や「比較する臭いの種類を増やしてみるとよいのではないか。」といった意見をもらいました。今後何かの機会に研究できると新たな発見があるかもしれませんね。
②家庭で飼われているウサギを対象としたエンリッチメント22種の評価
③飼育ニワトリにおける人の声に対する反応
これら2つの研究は、口頭発表の中でも質疑応答のないライトニングトークで発表しました。ウサギの研究は、ウサギの運動量を増やすための環境や条件を調べる研究でした。22種類の条件をカテゴライズし、どのような刺激が運動量を増やすのか調査していました。ニワトリの研究では、ニワトリが人の声を判別できるのかを調査した研究でした。親しい関係にある人とそうでない人との声に違った反応がみられたので、ニワトリが人の音を聞き分けて行動を変化させている可能性が見出せました。
④チンパンジーの気温による行動の選択特性
ヒトが暑い日には日陰で涼をとり、寒い日には日向で暖をとるように、チンパンジーも気温の変化によって、行動や滞在場所を変えているのか調査しました。チンパンジーも暑い日は日陰にいくことが多いことや寒い日は行動が減ることがわかりました。会場からは「京都市動物園の屋外施設はどのようなものか。遊具などがあれば行動が増えるかもしれないので、他の園と比較すると違う結果が出るかもしれない。」といった意見をもらいました。研究では行動に影響をあたえる要因以外を統制しておくことが大切ですが、生徒もそのことを大いに実感できていたように思います。
⑤ゾウの耳振り頻度に関係するものは何か
ゾウの耳振りは体温調節のためにしている等諸説あるようですが、その原因について研究したものはほとんどないそうです。ゾウの耳振りがどのような時に生じるのか、他個体との接触時や食事、遊びといった行動面と気温面との関連性を調査した研究です。結果は、ゾウの耳振りと気温の関連が少なく、食事行動の際に耳振りが多く見られるという傾向がみられました。会場からは「今回の指標以外にも、耳振り行動に影響しそうな感情・行動について調査してみるとよいのではないか。」といった意見をもらいました。
本校の発表も興味深いものは多かったのですが、北野高校の発表も非常に面白いものでした。簡単に紹介すると、アカゲザルの日除けに関する研究やチンパンジーの利き手の調査、ゾウの利き鼻の調査(この研究は最優秀中高生ライトニングトーク賞を受賞しました。)などどれも個性的で、発表もとてもすばらしいものでした。今回の実習で、北野高校の生徒たちと関わることができたのも、とてもよい経験になったと思います。協力して研究を作りあげたという、この縁を是非とも大切にしてほしいと思います
余談になりますが、今回のプリ研究会では「小学生」の発表がありました。ワオキツネザルの観察をして研究にまとめ、しっかりと発表していました。その好奇心と熱意に、皆驚きを隠せませんでした。(この小学生の発表も特別賞を受賞しています。)
さて、冒頭にも書きましたが、今年度の発表も例年通り愛知県の犬山にある日本モンキーセンターに行って発表するはずでしたが、コロナ禍の中で断念せざるを得ませんでした。とても残念がっていた生徒たちのために、ジュニアアドバイザーの皆さんが昼休みにサプライズを用意してくれました。少しでも現地の雰囲気を味わって欲しいと、Zoomによる現地レポートを企画してくれたのです(お疲れ様、『チッカー』笑)。日本モンキーセンターの様子や実際の会場風景などを中継で見せてもらい、現地で過ごす雰囲気を味わえたと思います。
大会が終わった後は、お世話になった京都大学の先生方やジュニアアドバイザーの方々を交えて反省会です。一人一人の研究にアドバイスをいただきました。褒めていただくことも、厳しいご指摘をいただくこともありましたが、非常に熱心なご指導を賜りました。特にゾウの耳振りについての研究に「今後、研究を続けたら(200時間くらいの追加観察と他園での調査をしてみたら)、かなり面白い結果が出るのではないかという意見をもらいました。最後には、「研究は大変だったかもしれないが、この経験は絶対に役に立つ。身近なところに驚きがある。たとえ予想と違った結果であっても、新しい発見がある。苦しいことは沢山あるが、それ以上に楽しさがある。一度やってみれば、次はもっとスムーズにいくので、是非とも研究を通して学んだプロセスを今後何かのときには使ってほしい。」というお言葉をいただきました。
最後に、ジュニアアドバイザーから一年間の活動を通しての感想をいただき、今期の活動も終わりを迎えました。「大変だった」、「面白かった」、「議論を重ねることの大切を知った」、「一年間早かった」、「もっとできた」、「将来に役立つ力を身に付けることができたように思う」、「研究の苦しさを知った」など、生徒たちから沢山の感想が出てきました。それだけ、熱意をもって取り組んでくれたのだとわかり、非常に嬉しく思いました。皆で写真撮影をして、本当にこれで終了です。皆さん一年間本当にお疲れ様でした。
※今回の研究会で、本校と北野高校との合同研究である、『高校生を対象とした小型霊長類のペット飼育に関する意識調査と教育教材の効果測定』が本大会の〔最優秀中高生口頭発表賞〕に選ばれました!皆さんよくがんばりましたね。やったぞ!
ここで、生徒たちへ少し感想を。研究というのは地道なことの積み重ねですし、思った通りに結果が出ないことも多かったですね。そんな中でも一年ご指導いただき皆さんが身に付けたことは、今後の人生で力となるはずです。仮説を立てるときも、手続きを工夫するときも、結果を分析するときも、考察するときも。大切なのは「深く考えること」です。一年を通して皆さんが、「なぜなのか」、「どうやったらよいのか」と様々に悩み考えた経験をしたことは今後何事にも代えがたい宝物となりますからね。
さて、ブログでの2021年度第7期活動報告もこれで最後になります。私の拙い文章に一年間お付き合いいただきありがとうございました。最後になりますが、ジュニアアドバイザーの皆さんを始めとした京都大学霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院野生動物学初歩実習関係者の皆様、一年間ご指導いただき、誠に有り難う御座いました。